部屋を明るくすれば、すべてが見やすくなる。そう考えたあとで、影があるから分かる奥行きや、輪郭がはっきりしないものの美しさについても考えてみたい。谷崎潤一郎の随筆を、窓の外ではなく、窓から入ってくる光のほうへ視線を向ける一冊として選びます。
小坪書房で提案したいのは、本に書かれた美意識をそのまま正解にする読み方ではありません。自分はどんな明るさを心地よいと感じるのか、何が見えていると落ち着くのか。いまの暮らしと本の言葉の距離を測ることで、馴染みのある部屋にも考える余地が生まれます。
読みながら、時間を変えて同じ窓辺を見るのもよいでしょう。ものの位置が同じでも、光の当たり方で受け取る印象は変わります。写真集の隣にも、空間を考える本の隣にも置ける一冊。部屋を大きく変える前に、そこにある光と影を眺めるために。