ひとつの場所を好きになる理由は、そこにある建物や眺めだけではないのかもしれません。隣家の猫が訪ねてくる日々を描いた『猫の客』を、小坪書房では、暮らしの内と外の境目を考える小説として選びます。庭や部屋は、訪れるものとの関係によっても、違う場所になっていきます。
読むときに思い浮かべたいのは、自分の暮らしにもある、小さな訪問です。人、動物、届く手紙。毎日そこにあるとは限らないものを待つことで、同じ窓や道を見る気持ちが変わることがあります。作品と自分の経験を急いで重ねず、それぞれの距離を残したまま読むことを薦めます。
町全体を想像する本の隣に、生活のすぐ近くを描く一冊を置く。遠くへ広がる風景と、わずかな範囲に深まる風景を行き来するための選書です。読み終わったあとに何かを確かめたくなるとしたら、それは遠い名所より、いつもの窓の向こうかもしれません。